行政法テキスト(第5版)

行政法入門:基本概念と具体的適用例

 

1. 行政法とは何か?(基本概念と目的)

行政法とは、国や地方公共団体の行政機関の活動を規律する法律の体系であり、行政の作用を法の下にコントロールしつつ、国民の権利利益を保護することを目的としています。行政機関は警察や役所など、公権力を行使して公共の利益を実現しますが、その活動が恣意的になれば国民の権利が侵害されかねません。そこで「法律による行政の原則」が行政法の基本に据えられています。これは「法律の留保」と「法律の優位」という二つの側面から説明できます。

  • 法律の留保: 国民の権利義務を制限・設定する行政活動には、必ず法律の根拠が必要だという原則です。行政が新たな義務を課したり罰則を科したりする場合、議会が制定した法律または法律の授権がなければ許されません。例えば、ある市役所が「今日から市民に〇〇税を徴収する」と勝手に決めることはできません。課税は法律に基づかなければならず、法律の定めのない課税処分は違法・無効となります。


  • 法律の優位: 行政活動は常に既存の法律に適合していなければならないという原則です 。たとえ法律の根拠がある行政行為でも、その内容や手続きが他の法律に違反してはいけません。行政は立法府が定めた法律を上回ることはできず、法律に反する命令や処分を行った場合、それも違法となります。例えば、法律で定められた手続きを無視してなされた処分や、憲法に反する内容の命令は無効です。


行政法はこのように行政に法の枠をはめることで、法治主義(Rule of Law)を行政の領域で実現する役割を果たします。また同時に、行政が適正かつ効率的に公共の福祉を実現できるよう、行政組織や手続を定めてもいます。行政法の具体的な領域として、後述するような行政行為(行政処分)やそれに関する手続法、行政による救済制度(行政不服申立てや行政訴訟)、国・自治体の損害賠償責任などが含まれます。これらを学ぶことで、行政がどのようなルールに則って国民と関わり、問題が起きたときにどんな救済手段があるかを理解できます。

ポイント: 法律による行政の原則

  • 行政は法律の根拠に基づいて行われねばならず、法律の定めなく国民の権利義務をいじることはできません(法律の留保) 。
  • 行政のあらゆる活動は法律に違反してはならないとされ、法律に反する行政行為は無効・違法となります(法律の優位) 。
  • これらにより行政権の濫用を防止し、国民の権利保護と法治主義の貫徹を図っています。

2. 行政行為とその分類

行政法の中心概念の一つに行政行為(行政処分)があります。行政行為とは、「行政庁(行政機関)が公権力の行使として、一方的に国民の権利義務に影響を与える行為」をいいます。わかりやすく言えば、役所が住民に対して発する許可や認可、命令や禁止などの行為が行政行為です。行政行為によって、国民は新たな権利を得たり(例: 営業許可によって営業する権利を取得)、逆に義務を課されたり権利を奪われたりします(例: 建築違反を理由にした建築許可の取消しによって建築継続の権利を失う)。行政行為は行政法の具体的な働きが現れる場面であり、試験でも頻出の重要テーマです。

行政行為の種類: 大きく二つのタイプに分類できます。

  • 授益的行政行為(利益を付与する処分): 国民に利益や権利を与えるタイプの行政行為です。例えば、建物を建てるための建築許可、営業を行うための営業許可、免許証交付などは、申請者に新たな権利や自由を与える処分です。これらは本来法律で禁止・制限されている行為を特別に許容するものであり、適法な要件を満たした場合に行政庁が与えるものです。具体例として、レストラン営業の許可、医師免許の交付、運転免許証の交付、生活保護の支給決定などは授益的な行政処分にあたります。


  • 侵害的行政行為(不利益処分): 国民に義務を課したり権利を制限・剥奪したりするタイプの行政行為です。例えば、営業停止処分や許可の取消し、課税処分(税金の賦課決定)、建築禁止命令、交通違反の反則金納付命令などが該当します。これらは国民にとって負担となる処分であるため、厳格な法律の根拠と適正な手続きが要求されます。具体例として、食品衛生法違反の飲食店に対する営業停止処分、違法建築に対する除去命令、自動車違反に対する免許取消処分反則金の命令などが侵害的行政行為です。


※なお、行政行為には上記のほか、審査請求に対する上級庁の裁決のように下級庁の処分を確認・変更する行為も含まれます。また、国民に対するものであれば行政契約などの双務的な行為は含まれません(行政行為は行政が一方的に行う行為に限られます)。

行政行為の効力: 行政行為が一旦行われると、たとえそれに瑕疵(欠陥・違法性)があった場合でも、原則として一定の効力が生じます。特に重要なのが公定力不可争力という概念です。

  • 公定力(こうていりょく): 行政行為は、形式上適法に成立している限り、たとえ実質的に違法であっても原則として権限ある機関によって取り消されるまでは有効と推定される効力です。簡単に言えば、「権限ある機関」(=行政庁の上級機関や裁判所)が正式に取り消すまでは、その処分は有効なものとして扱われる、ということです。例えば、ある人に対する課税処分が法律に違反していて不当であった場合でも、納税者が不服申立てや訴訟でその処分を取り消させない限り、その課税処分は有効なので納税義務は消えません。本人が「違法だから無視する」と独自判断して納税しなければ、滞納処分などを受ける可能性があります。公定力によって行政の安定性が保たれ、争いがない間は行政活動が一応有効なものとして円滑に進められるのです。


  • 不可争力(ふかそうりょく): 行政行為に対して不服申立てや取消訴訟など法定の争訟手段を取れる期間が過ぎると、もはやその効力を争えなくなるという効力です。つまり、行政行為には法律で定められた不服申立期間・出訴期間があり、その期間を経過すると原則として取消しや無効主張ができなくなります。一種の時効のようなもので、永遠に争えると行政の安定が損なわれるため設けられています。例えば、道路の建築許可が周辺住民に違法なものであった場合でも、定められた期間内に住民が取消訴訟を起こさなければ、その後はその許可の違法性を主張して取り消すことはできなくなります。


以上の公定力・不可争力により、行政行為は発令後一定の安定性をもちます。ただし、行政行為に重大な瑕疵がある場合の扱いには注意が必要です。行政行為の瑕疵の程度に応じて、「無効」か「取消し得る(有効だけれど取り消すことができる)」かが区別されます。

  • 無効な行政行為: 瑕疵が極めて重大かつ明白で、法律上初めから行政行為として成立していないと評価される場合、その行為は「無効」となります。無効とは、法的には最初から効力がない状態を指し、公定力も及びません。誰でも無効を主張でき、いつでも主張可能です(時間の経過による不可争力も生じません)。例えば、権限のない全く別の機関が勝手に下した処分や、対象者が存在しない人に対する処分(架空の人物に免許取消しする等)、内容が法律的に不可能な命令などは重大かつ明白な瑕疵があるため無効となり得ます。無効な処分に国民が従わなくても、それ自体違法にはなりません(もっとも実際には自分に無効と判断する権限はないため、争いになる場合は裁判所に無効確認を求めることになります)。


  • 取消し得る行政行為: 上記ほどではないものの違法の瑕疵がある行政行為は、一応有効と扱われますが、後で不服申立てや訴訟によって取り消すことができるものとされています。多くの違法な処分はこの「取消し得る処分」に該当し、公定力により一旦有効とされます。例えば、処分の手続上の瑕疵(理由の不備や手続違反)がある場合や、事実認定・法律適用の誤りがある場合などは違法ですが、それだけでは無効とまでは言えず、適法に取り消されるまでは効力を持ち続けます。これらは不服申立てや取消訴訟によって取り消しを求める必要があります。それまでは国民は処分に従わざるを得ない点が、公定力による「取消し得る違法」処分の厳しいところです。もっとも、一度正式に取り消されればその処分は初めから効力がなかったことになります(行政訴訟での取消判決の遡及効については後述)。


さらに関連する重要な概念に「違法性の承継」があります。これは、先行する違法な行政行為に基づいて行われた後行する行政行為の違法性を主張できるかという問題です。原則として、ある行政行為(先行処分)の違法は、後からなされた別の行政行為(後行処分)を争う場面で主張することはできません。例えば、建築許可が違法だった場合、本来はその許可自体を期間内に争うべきであり、それをしないまま後になってから「許可が違法だったから、その許可に基づく後の処分も違法だ」と主張することはできないのが通常です。しかし、例外的に違法性の承継が認められるケースもあります。典型例は、先行処分について不服申立てや訴訟による救済の機会が十分に保障されていなかった場合です 。例えば、ある許可の後になされる命令に対し争う場合に、もしその許可自体を争う手段が法律上用意されていなかった(先行処分を直接取り消す訴訟が起こせなかった)ようなときには、後行処分の取消訴訟の中で例外的に先行処分の違法を主張することが認められた判例があります。これは非常に専門的な論点ですが、行政救済制度の谷間を埋める考え方として押さえておきましょう。

ポイント: 行政行為の定義と効力

  • **行政行為(処分)**とは、行政庁が一方的に国民の権利義務に影響を与える行為のことで、許可や免許、命令や禁止処分などが該当します。
  • 授益的処分(許可・認可など)と侵害的処分(取消処分・課税処分など)に大別され、前者は権利や利益を付与し、後者は義務付けや権利剥奪を内容とします。
  • 行政行為には公定力があり、違法であっても権限ある機関に取り消されるまで有効と推定されます。したがって国民は処分に従わざるを得ず、無視はできません。
  • 行政行為には不可争力もあり、定められた期間を過ぎると原則として争えなくなるため、救済は期間内に行う必要があります。
  • 重大かつ明白な瑕疵がある場合は処分は無効となり最初から効力がありませんが、それ以外の違法は一応有効なもの(取消し得る違法)として扱われ、あとで正式に取り消す手続きを踏む必要があります。
  • 原則、前の処分の違法を後の処分で主張すること(違法性の承継)はできませんが、先行処分を争う機会が無かったなど例外的に承継が認められる場合もあります。

3. 行政手続法(許認可・処分・行政指導)

行政手続法は、行政運営における公平性と透明性を確保するために制定された一般法で、行政処分や行政指導等の手続きを定めています(行手法1条)。行政機関が国民に対して許可を与えたり不利益処分を行ったりする際、恣意的な運用や手続の不透明さを防ぐことがこの法律の目的です。1994年に施行された比較的新しい法律で、どのような手順で処分が行われるべきか共通ルールを提供しています。

適用範囲: 行政手続法は主に国の行政機関による処分に適用されます。都道府県や市町村など地方公共団体の行政手続については各自治体が条例で同様の手続きを定めることになっており、国の機関ほど一律ではありません(多くの自治体は国の手続法に準じた条例を定めています)。また、処分以外にも行政指導や届け出、命令制定手続(パブリックコメント)等について規定しています。ただし立法措置や司法手続など一部の行為は適用除外があります(例えば刑事手続や海難事故の認定手続などは対象外とされています)が、ここでは代表的な処分手続について説明します。

行政手続法における申請と処分

行政手続法は、国民からの申請に基づく処分(許認可等)について、行政が守るべき手順を定めています。例えば営業許可や各種免許の交付申請などがこれに当たります。

  • 審査基準の設定・公表: 行政庁は、許可や免許など申請に対する処分についてあらかじめ審査基準を定めておかなければなりません(行手法5条)。審査基準とは「どういう条件を満たせば許可を与えるか/与えないか」という判断基準で、法律や政令の定めを具体化したものです。また可能な限りその基準を公表して透明性を図ることとされています(少なくとも申請の窓口で求めがあれば閲覧できるようにします)。これにより申請者は何を満たせば許可が得られるのか事前に知ることができ、公平な審査が期待できます。


  • 標準処理期間の設定: 行政庁は申請を受け付けてから処分をするまでの標準的な処理期間をあらかじめ定め、公表するよう努めなければなりません(行手法6条)。例えば「申請を受理してから原則30日以内に処分する」といった目安の期間です。実際に法律や条例で明確に何日以内と定める場合もあります。標準処理期間が定められていることで、申請者はどれくらいで結果が出るか予測できますし、行政庁も不当に長引かせない努力義務を負います。


  • 応答・処分の義務: 行政庁は正当な申請に対し必ず何らかの応答(処分)をしなければならないとされています(行手法7条)。「放置して無回答」というのは原則許されません。申請に不備があれば補正を求め、要件を満たす場合は許可等を与え、不許可とする場合も処分という形で通知する必要があります。


  • 理由の付記義務(不許可処分等): 行政庁が申請に対して申請者の求めどおりにならない処分(例えば許可申請を拒否する、不許可とする場合)をする場合には、その理由を申請者に示さなければなりません(行手法8条) 。これは重要な規定で、許可しないのであれば「なぜ許可できないのか」の理由を具体的に知らせることで、申請者の納得や後の不服申立ての便宜を図るものです。

  • 引用条文: 「行政庁は、申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合は、当該処分の理由を示さなければならない」(行政手続法8条)。

  • 例えば建築確認申請に対し不適合があり不許可とする場合、「○○法△条の基準に適合しないため許可できない」等、具体的な条項や事実関係を示す必要があります。理由が示されなかったり不明瞭だったりすると、申請者はなぜだめだったのか分からず、適切な対応(計画変更や不服申立て)ができません。そこで判例では、理由附記が欠けている処分は違法として取り消されうるとしています。


※具体例: レストラン営業許可を申請したところ、「不許可。理由:基準不適合」とだけ書かれた通知を受け取ったとします。この場合、何が基準不適合なのか分からず申請者は困ります。行政手続法により「厨房の広さが条例で定める基準(○㎡以上)に満たないため不許可」といった具体的理由が示されるのが本来求められ、そうでない通知は違法となる可能性があります。

不利益処分の手続(聴聞・弁明機会等)

行政手続法は、国民に不利益を与える処分(不利益処分)をする際の事前手続も詳細に規定しています。処分の名あて人(相手方)にとって権利を奪われたり義務を課されたりする深刻な影響があるため、いきなり処分を下すのではなく事前に本人の言い分を聞く機会を与えることが原則となっています 。

  • 意見陳述の機会の付与(聴聞または弁明): 不利益処分をしようとする場合、処分を受ける者に対し事前に**「理由の告知」を行い、かつ「意見陳述のための手続」を設けなければなりません(行手法13条) 。

  • 意見陳述の手続には、主に聴聞弁明の機会の付与**の二種類があります。聴聞はより正式な手続で、処分庁とは必ずしも独立しない聴聞主宰者の下で当事者が口頭意見陳述や証拠提出を行う場が設けられるものです。重大な処分(例えば許可の取消しや営業停止など権利剥奪が大きい場合)で採用されます。一方、弁明の機会の付与は聴聞ほど形式ばらない手続で、処分予定者に文書などで自己の意見を述べる機会を与えるものです。過料の賦課など比較的軽微な不利益処分の場合に採られます。いずれにせよ、行政庁は処分の前提となる事実や法律上の根拠をあらかじめ相手に示し、相手から反論や事情を聴いた上で最終的な処分判断を下すことになります。これにより、防御の機会が保障され、公正な処分決定に資するわけです。


  • 事前手続の例外: 上記の聴聞や弁明の機会付与は原則必要ですが、法律上例外も認められています(行手法14条等)。典型例は緊急の場合です 。

  • 例えば、食品営業停止処分を行う際、本来は営業者に弁明の機会を与えるべきですが、食中毒事故など緊急を要する場合には直ちに営業停止しなければ公衆衛生に危機が及ぶことがあります。そのような場合、事前に聴聞等を行う時間的余裕がないため、例外的に手続きを省略して即時に処分を下すことが認められます。

  • また、処分を受ける者が明らかに意見陳述の機会を放棄した場合(呼び出しに応じず出席しない等)や、相手方の住所不明で通知できない場合なども例外として手続きを省略できることがあります。

  • ただし、これらはあくまで例外であり、行政庁は可能な限り事前手続を尽くす努力義務があります。緊急省略の場合でも、処分後になるべく速やかに本人の意見を聴く措置をとることが望ましいとされています。


  • 理由の提示(処分理由の付記): 不利益処分を実際に行う際には、先述した申請拒否の場合と同様、処分書面にその理由を付記しなければなりません(行手法14条1項)。事前に理由を告知していても、最終処分書に正式な理由を示すことは必要です。理由の付記がない処分や、理由があまりに抽象的で具体性を欠く処分は適法性を欠き、取り消しの対象となりえます。


※具体例: 行政指導に従わなかったことを理由にいきなり許可取消処分を出すのは、本来違法です(事前手続違反であり、行政指導不履行を処分理由にするのも不適切)。

まず「○月○日の立入検査で××の衛生基準違反が認められました。つきましては営業停止処分を行おうと考えますので、○月○日までに弁明書を提出してください」といった形で理由を示し、相手に反論機会を与えます。その後、提出された意見書を考慮して処分を決定し、「違反事項が改善されていないため営業停止○日とする。理由:食品衛生法○条(具体的な条文内容)」と処分書に明記して相手に交付する、という流れになります。

このように理由が具体的かつ相手方に伝わる形で示されていれば、処分を受けた側も納得がいきやすく、不服がある場合もどの点を争えばよいか明確になります。

行政指導に関する手続

行政指導とは、行政機関が法的な強制力を伴わずに、相手方の任意の協力を求める働きかけのことです。例えば「騒音を減らすように努めてください」「任意でアンケートにご協力ください」といった要請が行政指導です。行政指導それ自体には法的拘束力が無く、応じるかどうかはあくまで相手の自由です。

行政手続法は行政指導についても基本的なルールを設けています。

  • 行政指導の方式と許容範囲: 行政指導を行う際は、その目的や内容をできる限り明確に相手方に示すことが求められます(行手法32条・33条)。口頭で行う場合でも趣旨をはっきり伝え、相手方が求めれば指導内容を書面で提示することになっています。また、行政指導に従わなかったことだけを理由に不利益な扱い(不利益処分等)をしてはならないとも定められています。これは「任意の協力」を建前とする以上、実質的な強制になってはいけないという考えからです 。つまり、「協力しないなら許可を与えないぞ」などと圧力をかけるのは違法な行政指導となります。


  • 恣意的な運用の防止: 行政指導は法律に基づかない分、行政側の裁量の余地が大きくなりがちです。そこで行政手続法は、行政指導についてもその適正を期すため、行政指導指針の公表(分野ごとにどういう指導を行うか指針を定める)や、関係者全員が同じ場にいる状況での指導(いわゆる一斉指導)の場合は一人でも反対すれば全員への指導を中止すること、などの細かな規定を置いています(行手法33~35条)。これらは初学者には細かいですが、要するに行政指導であっても公平・透明であるようにという趣旨です。


  • 行政指導の限界: 行政指導は原則としてあくまで任意協力のお願いであるため、相手方が従わなくても直ちに罰せられることはありません。逆に言えば、行政指導には限界があり、相手が全く従わない場合はそれ以上強制できません。その場合、行政庁は法的義務を課す手段(例えば命令や許可取消処分など)に切り替える必要があります。ただし当然それには法律の根拠と正当な手続きが必要です。行政指導は柔軟な問題解決手段として有用ですが、限界を超えて事実上の強制にならないよう注意が払われます。判例でも「行政指導はあくまで勧告の域を出ない」として、従わなかったことだけで不利益に扱った処分を違法と判断したものがあります 。


※具体例: 環境規制で法的義務はないが工場に自主規制を求める場合、行政は「可能な限り夜10時以降は操業音を低減するようお願いします」という行政指導を出すことがあります。工場側が協力すれば円満ですが、もし従わなくても、それだけで直ちに罰金や操業停止は科せられません(法的義務でないため)。行政は指導に従わないことを理由に「罰則を科す」ことはできず、どうしても必要なら議会に働きかけて条例や法律で義務化するか、他の法令(公害防止条例など)の適用を検討することになります。行政指導はあくまでソフトなアプローチで、強制力を持たない点が特徴です。

  • パブリックコメント手続: 行政手続法は行政立法手続(政省令など命令等の制定改廃)についても、原則として**意見公募手続(パブリックコメント)**を義務づけています。これは国民に広く意見提出の機会を与える手続で、命令等の案を公示し、30日以上の意見募集期間を設けるものです(行手法39条)。例えば環境基準に関する省令を改正する際、事前に案を公表して国民や事業者から意見を募り、その意見を考慮して最終決定する手順を踏みます。もっとも、人事院規則など一部の内部規則には適用されません。このように、行政手続法は行政が定めるルールの段階から透明性確保を図っています。

ポイント: 行政手続法による処分手続のルール

  • 申請に対する処分: 行政庁は許認可等の申請に対し、あらかじめ定めた審査基準標準処理期間に従って審査・処分しなければなりません。不許可の場合は理由を示す義務があり(行手法8条)、申請者に具体的な不許可理由を通知します 。
  • 不利益処分の事前手続: 国民に不利益を与える処分を行う際は、原則として事前に理由を通知し、意見陳述(聴聞または弁明)の機会を与える必要があります。緊急の場合や相手が手続を放棄した場合など限定的に省略が認められるものの、原則は相手方の反論機会を保障します。最終的な処分には理由の付記も必要です。
  • 行政指導: 行政指導は任意の協力を求めるもので法的強制力はなく 、応じないことを理由に直ちに不利益処分をすることはできません。行政指導を行う際は目的や内容を明確に示し、恣意的な強制にならないよう手続的配慮が求められます。
  • 透明性と公正の確保: 以上のルールにより、行政処分がなされる過程での透明性・公平性が高められ、国民は理由を知らされ意見を述べる機会を得ることで、防御権が保障されています。行政手続法は行政と国民の橋渡しをする手続面の基本法と言えます。

4. 行政不服審査法と行政事件訴訟法(救済手続き)

行政活動によって権利や利益を侵害された国民は、その救済を求めることができます。行政法上の救済制度は大きく行政不服審査法による不服申立て(行政内部での救済)と、行政事件訴訟法による裁判所での救済(司法救済)に二分されます。ここではそれぞれの仕組みを具体例とともに説明します。

(a)行政不服審査法による不服申立て(行政内部の救済)

行政不服審査法は、行政庁の処分その他行政庁の違法又は不当な行為に不服がある場合に、行政機関に対してその是正を求めることができる行政不服申立ての手続を定めた法律です。。いわば「行政に対する行政内部でのアピール」の手段で、裁判に比べて手続きが簡易・迅速で費用もかかりません。2016年に現行法へ全面改正され、より利用しやすくなりました。

  • 不服申立ての種類: 行政不服審査法に基づく不服申立ての原則的な手段は「審査請求」です 。旧法では「異議申立て」「再審査請求」など複数ありましたが、現在は特定の場合を除き審査請求に一元化されています。審査請求を提起すると、処分庁より上級の行政庁や第三者機関がその処分の適否を審査します。たとえば、市役所の処分であれば都道府県や国の機関が審査する、あるいは独立の審査会が設置されてそこで審理されるケースもあります。


  • 申立ての対象: 不服申立ての対象となるのは、行政庁の処分および不作為です。処分とは先述の行政行為であり、許可の拒否や取消処分など明確な処分はもちろん、申請したのにいつまでも処分を出さない「不作為」も対象になります。「○○について申請したが役所が全く動いてくれない」という場合にも不服申立てできるわけです。また、不服申立てをすることができる者(申立人)は、処分を受けた本人だけでなくその処分に利害関係を有する第三者も含まれます。例えば、隣地の建築許可によって日照被害を受ける隣人など、直接の処分の名あて人でなくとも法律上保護された利益を有する者は申立てし得る場合があります(この点は取消訴訟の原告適格と似ています)。


  • 教示(きょうじ)制度: 行政庁は処分を行う際に、その処分について不服申立てができるか否か、できるとしたらどの期間内にどこに対してすべきか等を、処分書面に必ず記載(教示)しなければなりません。この教示制度のおかげで、国民は自分が不服申立てできるかどうか迷わずに済みます。万一行政庁が教示をしなかったり誤った教示をした場合は、申立期間が延長される救済措置もあります 。例えば、本当は「処分を知った日から3か月以内」に審査請求すべきところ、役所がその記載をし忘れた場合、気付いた時点から改めて期間が起算されるといった扱いになります。


  • 手続の流れ: 不服申立てをしたい人は、まず所定の期間内に所轄庁に対し審査請求書を提出します。その書面には、申立人の氏名住所、対象となる処分の内容、不服の理由など必要事項を正確に記載する必要があります。提出先は教示に従って、処分庁や上級庁など定められた機関です。申立期間は原則として「処分があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内」です(処分があった日から1年を経過すると原則提起できませんが、不知期間内であれば最長で処分後1年+αまで延びる規定もあります)。例えば、4月1日に処分を知ったなら、7月1日までに審査請求書を提出しなければなりません。


  • 執行停止: 審査請求をしても、原則として処分の効力や執行は自動的には止まりません(裁判の場合と同様、停止の効果なしが原則です)。しかし、申立人の申立てにより処分の執行停止が認められる場合があります。行政庁(審理をする庁)は、処分を直ちに執行させると申立人に著しい損害が生じ、かつ公共の福祉に重大な影響がないと認めるときは、処分の効果を一時ストップできます(行政不服審査法25条)。例えば、違法な建物の除去命令に対し審査請求がなされ、放っておくと建物が取り壊されて申立人に回復困難な損失が出る場合などに、審査庁が執行停止を決定することがあります。ただし、公の安全・利益に支障がある場合などは停止できません。


  • 審理と裁決: 審査請求がなされると、通常は上級行政庁に置かれた審査庁(担当部局)が事案を審理します。審理では必要に応じて当事者から事情を聞き、資料を収集し、場合によっては行政不服審査会(第三者機関)の意見を聴取します。原則として、審査請求を受理してから90日以内に最終的な判断(= 裁決)をしなければならないと定められています。複雑な事件ではやむを得ず90日を超えることもありますが、その場合もできるだけ速やかな決着が図られます。審査請求に対する裁決の種類には以下のものがあります。



    • 認容(にんよう)裁決: 審査請求が理由ありと認められた場合です。つまり処分に違法・不当があったとして、これを取り消したり変更したりする判断です。具体的には「原処分を取り消す」「処分庁に対し許可を与えるよう命じる」といった内容になります。申立人の言い分が通った形ですので、行政内部での救済が実現したことになります。

    • 棄却(ききゃく)裁決: 審査請求が理由なしと判断され、原処分が正当と認められた場合です。処分はそのまま維持されます。

    • 却下(きゃっか)裁決: 手続要件を満たしていないため実体判断まで至らず申立てを門前払いする場合です。例えば申立期間を過ぎていたり、申立人適格がない者の請求だった場合などが該当します。この場合、処分の当否についての判断はされません。


    裁決が下されると、その内容が申立人および処分庁に通知されます。認容裁決の場合、処分庁は裁決の定めるところに従って処分を取り消し又は変更しなければなりません(たとえば「○○処分を取り消す」との裁決が出れば処分は失効します)。棄却の場合は処分が維持されます。却下の場合は改めて要件を整えて申立て直すか、別の手段(裁判など)を考えることになります。


  • その後の対応: 行政不服申立てはあくまで行政内部の手続です。不服申立ての結果にさらに不満がある場合、最終的には裁判所に救済を求めることができます。日本の制度では、通常、不服申立てを経なくても直接裁判を起こすことができ(審査請求の前置主義は採用されていません) 。したがって、行政不服審査法による救済は、裁判に比べて迅速・簡易なのでまず利用する人もいますが、飛ばしていきなり取消訴訟を提起する人もいます。ただし、年金や労働に関する一部の特別法では審査請求前置(まず審査請求をしないと訴訟に行けない)を定めている場合があるので注意が必要です。いずれにせよ、不服申立て制度は行政が自ら間違いを正すチャンスであり、利用価値の高い手段です。


ポイント: 行政不服審査法による不服申立て

  • 行政庁の処分や不作為に不服がある者は、行政不服審査法に基づき行政に対し不服申立て(審査請求)ができます。
  • 不服申立ての主たる方法は審査請求であり、審査庁(通常上級庁)が処分の当否を審査します。
  • 申立ての対象は処分および不作為で、処分の相手方以外の利害関係人(第三者)も申立人になり得ます。
  • 行政庁は処分時に不服申立ての可否・期間・提出先を教示する義務があります。誤った教示や無教示の場合、申立期間の延長等の措置がとられます。
  • 申立期間は原則「処分を知った日から3か月以内」で、遅れれば却下対象です。期間内に理由を記載した審査請求書を提出します。
  • 審査請求中も原則処分の効力は維持されますが、申立てにより執行停止が認められる場合があります(重大な不利益を避ける必要があり公共の福祉に反しないとき等)。
  • 審査庁は原則90日以内に裁決を下し、結果は認容(処分取消し等)・棄却(請求棄却)・却下(不適法)のいずれかです。それぞれ処分の変更、維持、申立て無効を意味します。
  • 原則として不服申立てを経なくとも直接裁判を提起可能であり、不服申立ては任意の救済手段です(※特別法で前置が定められる場合を除く)。

(b)行政事件訴訟法による司法救済(取消訴訟・国家賠償訴訟との関係)

行政上の紛争について裁判所で争う手続きを定めたのが行政事件訴訟法です。行政事件訴訟法に基づく訴訟は、一般の民事訴訟とは異なり、行政行為の適法性をコントロールし国民の権利救済を図るための特別な制度です。行政事件訴訟にはいくつか種類がありますが、中心となるのは行政処分の取消しを求める**「抗告訴訟」**です。

  • 行政事件訴訟の種類: 行政事件訴訟法は訴訟類型を4つに分類しています。①抗告訴訟、②当事者訴訟、③民衆訴訟、④機関訴訟です。



    • 抗告訴訟: 行政庁の処分や裁決の取り消し・無効確認・差止め・義務付けを求める訴訟で、最も典型的なのが取消訴訟(処分の取消しを求める訴訟)です。その他、後述する無効等確認訴訟(処分の無効の確認)、義務付け訴訟(処分をするよう求める)、差止訴訟(処分をしないよう求める)など新しい類型も抗告訴訟に含まれます。

    • 当事者訴訟: 国家や公共団体と国民との間の法律関係に関する訴訟で、主に行政契約や身分関係など処分ではない公法上の権利義務の確認・履行を求めるものです。例えば、法律上当然に認められる年金支給を求める訴訟などが該当します(処分の取り消しではなく「自分に年金を支給する義務が国にある」ことを確認するような訴訟)。

    • 民衆訴訟: 国民全体の利益のために提起する訴訟で、特に地方自治における住民訴訟(自治体の財務会計上の違法を住民が争う)や選挙無効訴訟などがこれに当たります。自分自身の権利利益でなく、公益のために起こす点が特徴です。

    • 機関訴訟: 国や公共団体の機関相互の争いに関する訴訟です。典型例は国と地方公共団体の権限争い(是正の要求に対する訴訟など)や、地方公共団体相互の争いです。これらは一般の国民は関与せず、公権力同士の争いを裁判で解決する特殊な訴訟です。


    上記のうち、行政書士試験などで特に重要なのは抗告訴訟です。中でも処分の取消訴訟について詳しく見ていきます。


  • 取消訴訟(処分の取消しを求める訴え): 行政事件訴訟法の中核となる訴訟で、違法な行政処分を取り消す(無効にする)判決を求めて提起されます。例えば「違法な営業停止処分を取り消してほしい」「不当に却下された建築許可申請の拒否処分を取り消してほしい」といった訴えです。取消訴訟には他の訴訟にはない固有の要件がいくつかあります。



    • 原告適格(誰が訴えを提起できるか): 取消訴訟は「法律上の利益を有する者」でなければ提起できません(行訴法9条)。これは、自分に法的な利害関係がある場合に限り訴えることができるという意味です。処分の名宛人(直接処分を受けた人)はもちろん法律上の利益がありますが、場合によっては第三者にも原告適格が認められます 。例えば、隣の土地に建設される巨大建築物の許可処分について、その地域の環境保全条例などに照らし隣人である自分も保護対象だと言える場合には、隣人にもその建築許可取消しを求める原告適格が認められることがあります。判例では、環境影響評価法に基づく周辺住民の環境利益などが「法律上保護された利益」に該当するとして、周辺住民の原告適格を肯定した例があります。逆に、何の利害関係もない一般市民(いわゆる納税者訴訟で原告適格が問題になることがあります)は、自分の法律上の利益とは言えないため原告適格がなく、訴えは却下されます。



    • 被告適格(誰を被告として訴えるか): 原則として、処分または裁決を行った行政庁が被告となります(行訴法11条) 。つまり、その処分を実際に決定・発動した役所や大臣などが被告です。注意が必要なのは、行政不服申立てを経ている場合です。不服申立て(審査請求)が行われ裁決が出ているときは、原処分はその裁決によって置き換えられるため、裁決をした行政庁が被告になります(これを裁決主義と言います)。いずれにせよ、私人ではなく行政主体側(国・自治体)が被告になります。



    • 出訴期間(提訴期間制限): 取消訴訟はいつまでも提起できるわけではなく、法律で出訴期間が定められています。原則は「処分があったことを知った日から6か月以内」です(行訴法14条)。不服申立てをしていた場合は裁決の告知を受けた日から6か月以内となります。さらに処分の日から1年を経過した場合は、たとえ知らなかった事情があっても原則提訴できなくなります(長期間経過すると行政関係が安定して第三者も関与してくるため)。

    • したがって、例えば4月1日に処分があったと知ったら、10月1日までに取消訴訟を起こす必要があります。この期間を徒過すると、裁判所は訴えを却下します。ただし期間経過後でも、やむを得ない理由があると裁判所が認めれば例外的に訴えを受理することも可能です。



    • 執行不停止の原則: 取消訴訟を起こしても、処分の効力や執行は自動的には止まりません(行訴法25条)。これを「執行不停止の原則」といいます。民事訴訟のような強制執行停止とは異なり、行政訴訟では原則として訴訟中も処分は有効なまま存続します。したがって、取消訴訟を提起してもその間に処分の効力が進行し、原告が不利益を受け続ける可能性があります。

    • 例えば営業停止処分の取消訴訟を起こしても、裁判で取消判決が出るまでは営業は再開できません。この点、救済が実効的でないので、法律は例外として執行停止の制度を設けています。原告の申立てにより、裁判所が「処分の執行等を停止する決定」を出せば、判決が出るまでの間処分の効力が一時停止します(行訴法25条2項)。執行停止の要件は、不服申立ての場合と似ており、「放置すれば著しい損害が生じ、かつ公共の福祉に重大な影響がないこと」です。

    • 例えば、違法な建物除去命令に対し取消訴訟を起こした原告が家屋取り壊しの工事差止めを求める、といったケースで執行停止が認められることがあります。



    • 判決の効果: 裁判所が処分に違法ありと判断すれば、処分を取消す判決(取消判決)を言い渡します。取消判決が確定すると、その効力発生時点から処分はなかったものとみなされます(これを判決の遡及効(そきゅうこう)といいます)。つまり、処分後にそれに基づいて行われた後続措置も、処分自体が最初から不存在だったことになるため、法的根拠を失います。また取消判決の効果は原告と被告の間だけでなく第三者にも及びます 。これを処分の第三者効と言います。

    • 例えばある建築許可を取消す判決が確定した場合、その建築許可に依拠していた第三者(建築主や工事請負人など)も、もはや許可が無効となった以上工事を継続できなくなります。

    • ただし、第三者が既に存在する場合(例えば許可に基づいて転売された土地の買主など)には、その第三者の利害にも配慮が必要となります。このため、行政訴訟には例外的に事情判決といって、処分が違法であっても取消さない判決を下す制度もあります。事情判決(行訴法31条)は、処分を取消すと著しく公益を害する場合に、処分は違法としつつも取消を棄却する判決です。その場合、原告には損害賠償など他の手段で救済を図ることになります。事情判決は極めて例外的で、実務上も滅多に使われませんが、有名な例として選挙無効訴訟で投票のやり直しが著しく困難な場合に事情判決が言及されたことがあります。



    • 判決が確定した後: 取消判決が出れば行政庁はそれに従う必要があります。例えば取消判決により営業停止処分が取り消されれば、営業停止は初めから無効であったことになるので、営業者は営業を継続できます。また、処分取消しに伴って生じた損害については、別途国家賠償請求(後述)を行う余地もあります。一方、請求が棄却(処分は適法)となれば処分はそのまま存続します。原告は控訴するか、諦めて処分に従うことになります。




    (※参考:行政庁が自ら処分を撤回(職権取消し)する場合は「将来に向かって効力を失わせる(ex nunc)」効果しかありませんが、裁判所の取消判決は「遡及効(ex tunc)」があります。この違いも覚えておきましょう。)


  • その他の抗告訴訟: 2004年の法改正で、上記の取消訴訟以外にも積極的な救済を可能にする訴訟類型が整備されました。

    • 義務付け訴訟: まだ行政庁が何らかの処分をしていない場合に、行政庁に対して一定の処分をするよう求める訴訟です 。典型例は「本来もらえるはずの許可がもらえていないので、許可を与えるよう判決で命じてもらう」ケースです。

    • 例えば開業許可申請を出したのに役所が違法に申請を放置しているような場合、義務付け訴訟で「役所は原告に対し許可処分をせよ」という判決を求めます。義務付け訴訟が認められるには、原則として事前に申請や審査請求など所定の手続を経ていること(いきなり裁判に持ち込む前に行政にチャンスを与える)や、原告がその処分を受ける法律上の地位にあること(許可要件を充足しているのに不当に出さない等)、処分をしないことで原告に著しい損害が生じる恐れがあること、などの要件があります。


    • 差止訴訟: これは将来なされるであろう行政処分を事前に差し止めることを求める訴訟です。例えば、「行政庁が違法な許可を出そうとしているので、それを差し止めたい」「違法な公共事業による将来の収用を止めたい」といった場合です。差止訴訟は将来の行為に対する予防的救済であるため、義務付け訴訟と同様、具体的な違法が発生する蓋然性が高いことや、それにより重大な損害を被る恐れがあることなど厳しめの要件があります。実務上は環境訴訟などで差止めが問題となることがあります。


    • 無効等確認訴訟: これは行政処分の無効確認を求める訴訟です。すでに説明したとおり、重大かつ明白な瑕疵がある行政処分は「無効」と扱われますが、行政庁がそれを認めない場合や争いがある場合、利害関係人は処分が無効であることの確認を裁判所に求めることができます。無効確認訴訟には取消訴訟のような短い出訴期間制限がありません(無効なものは時間が経っても無効なので、一定の要件のもといつでも確認し得るという理屈です)。

    • もっとも、無効確認訴訟では処分が明白無効であることの証明責任が原告にあり、ハードルは高いです。そのため訴訟戦略としては、無効を主張できる場合でもまず取消訴訟を提起し、予備的に無効確認も求める形が一般的です。


    • 不作為の違法確認訴訟: 行政庁が申請などに対して何らの処分もしないまま相当期間が経過した場合に、その不作為が違法であるとの確認を求める訴訟です。これは義務付け訴訟と組み合わせて提起されることが多く、「不作為が違法=本来すべき処分をしていないのがおかしい」という確認を得た上で、じゃあ処分せよ(義務付け判決)と求める流れです。単独で提起も可能ですが、不作為違法を確認するだけでは実益が乏しいため、義務付けとセットが典型です。


※国家賠償請求訴訟(後述)は行政事件訴訟法上は当事者訴訟ではなく民事訴訟として扱われます。国家賠償は行政の違法行為に対する損害賠償請求ですが、相手は国や公共団体とはいえ法律上は民法上の不法行為に基づく損害賠償請求となるため、行政事件訴訟法の対象ではない点に注意してください(もっとも広義には行政に関連する訴訟ではあります)。

ポイント: 行政事件訴訟による司法救済

  • 行政事件訴訟の種類: 抗告訴訟・当事者訴訟・民衆訴訟・機関訴訟の4類型があります。一般国民が自らの権利救済で用いるのは主に抗告訴訟(取消訴訟・無効確認訴訟・義務付け訴訟・差止訴訟など)です。
  • 取消訴訟: 違法な行政処分の取消しを裁判所に求める訴訟で、原告適格は「法律上の利益」を有する者に限られます。被告は処分等をした行政庁です。提訴は処分を知った日から6か月以内に行う必要があります 。訴訟中も原則処分の効力は停止しないため、必要なら裁判所に執行停止を申し立てます。取消判決が確定すれば処分は初めから無効となり、第三者にもその効力が及びます 。ただし公益に著しい支障がある場合は事情判決により違法でも取消されないことがあります。
  • 義務付け訴訟・差止訴訟: 行政に一定の処分を行うよう求めるのが義務付け訴訟、将来の処分の差止めを求めるのが差止訴訟です。いずれも取消訴訟を補完する形で設けられ、申請前置(まず申請しておくこと)や重大な損害の恐れなど厳しめの要件の下で認められます。
  • 無効確認訴訟: 処分の無効を確認する訴訟で、取消訴訟と異なり出訴期間の制限がありません(明白無効ならいつでも確認可)。ただし無効主張はハードルが高いため、通常は取消訴訟に附帯して主張されます。
  • 当事者訴訟等: 当事者訴訟は行政上の法律関係についての訴訟で、例えば国と私人の間の契約上の地位確認などが該当します。民衆訴訟・機関訴訟は特殊な訴訟で一般の権利救済とは趣旨が異なります。

5. 国家賠償法・損失補償(国や地方自治体の責任)

行政による権利侵害に対する救済として、司法救済には上記の取消訴訟などの処分自体を争う手段のほか、金銭的救済である損害賠償制度も重要です。

行政法分野で損害賠償といえば、大きく国家賠償損失補償の二本立てが挙げられます。前者は行政の違法行為による損害の賠償(いわゆる国家賠償責任)であり、後者は適法な行政行為によって生じた損失に対する補填(損失補償)です。

国家賠償(国・地方公共団体の賠償責任)

国家賠償制度は、公権力の行使によって国民が損害を被った場合に、国または地方公共団体が賠償責任を負うというものです。日本国憲法第17条は「何人も、公務員の不法行為により損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体にその賠償を求めることができる。」と定めており、これを受けて具体化されたのが国家賠償法です。

国家賠償法には大きく二つの柱があります。

  • 国家賠償法第1条(違法な公務員の行為による損害): 国家賠償法1条1項は、公務員の違法行為による損害についての国等の賠償責任を定めます。その内容を要約すると、「国または地方公共団体の公権力の行使に当たる公務員」が、その職務を行うについて故意または過失により違法に他人に損害を与えたときは、国または公共団体がこれを賠償する責任を負うというものです。条文上のキーワードを拾うと、①公権力の行使に当たる公務員、②職務上の行為、③故意または過失による違法な行為、④他人に損害、⑤国または公共団体の賠償責任、となります。順に解説します。

    • 「公権力の行使に当たる公務員」: 国または地方公共団体の機関として、公権力を行使する権限を持つ公務員を指します。典型例は国家公務員や地方公務員です。ここでいう公務員には、広く公的な権限を委任された者(非常勤職員や公立学校教員など)も含まれます。ただし裁判官や国会議員の行為については別途免責特約や特別の扱いがあり、一概にこの1条で賠償請求できるわけではありません(裁判官の職務行為については国家賠償法に特則があります)。「公権力の行使」とあるように、純粋な私経済活動や契約行為などではなく、行政処分や強制執行、警察活動のような権力的行為が対象です。


    • 「職務を行うについて」: 公務員の行為がその職務の範囲内でなされたことを要求します。たとえば警察官が職務中に職務として行った行為(職務質問や逮捕など)は該当しますが、勤務時間外に個人的に起こした交通事故など職務とは言えない行為は含まれません。ただし職務行為か否かは広めに解され、勤務中の行為である程度職務関連性があれば職務行為と認められることが多いです。


    • 「故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたとき」: 公務員の行為に故意・過失(主観的責任)があり、かつその行為が違法であり他人に損害を与えた場合です。過失とは公務員に求められる注意義務に違反したことを意味します。例えば警察官が適切な注意を怠って誤って発砲し人を傷つけた場合などが該当します。「違法に」とは、単に損害を与えただけでなく行為が法令に違反していることが必要です。公務員の職務行為が適法であれば、損害が発生しても国家賠償1条の責任は生じません(適法な場合は損失補償の問題となります)。


    • 「国又は公共団体がこれを賠償する責任を負う」: 上記要件を満たした場合、損害賠償義務を負うのは公務員個人ではなく、その所属する国または地方公共団体です。被害者は国や自治体を相手に賠償請求訴訟を提起します。個々の公務員を訴える必要はなく(逆に公務員個人を被告にしても国家賠償法に基づく請求はできません)、組織としての国・自治体が責任を負います。これを国家賠償の代理責任などと呼び、公務員個人ではなく国家が最終的な賠償主体となる仕組みです。例えば警察官が職務中に誤って人に怪我を負わせた場合、被害者は国(または都道府県)に対して賠償金を請求できます。


    • 【条文引用】 「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責めに任ずる。」(国家賠償法1条1項)


    • 求償権(第1条2項): 上記1項で国や自治体が賠償した場合、故意または重大な過失があった公務員に対して、その賠償額の全部または一部を請求することができます(国が肩代わりした分を公務員に負担させる制度)。ただしこれは被害者救済とは直接関係なく、あくまで国家内部の求償の問題です。通常、被害者は公務員個人では資力が無いことも多いので国が支払い、公務員に重過失があれば後から国が請求するという形で落ち着きます。実際に求償が行われるケースは限られています。


    • 判例上の論点: 国家賠償1条に関しては、公務員の範囲(非常勤や私企業の公権力行使受託者も含まれるか)、職務行為の範囲(休日の消防士の消火行為は職務か否か等)、違法の判断基準(職務上通常尽くすべき注意義務を尽くしたかどうか)、因果関係(損害との因果関係)などが論点となります。重要判例として、例えば警察官が大学構内に無断立ち入りした東大ポポロ事件では、大学自治を侵害した警察権行使が違法とされ国家賠償請求が認められました。また、公務員の不作為(本来すべき義務を怠った場合)も場合によっては1条の「違法」に含まれます。例えば河川管理者が適切な管理を怠り洪水被害を招いた場合など、判例は一定の場合に公務員の不作為も違法と判断しています。


  • 国家賠償法第2条(公の営造物の設置管理の瑕疵): 国家賠償法2条1項は、道路や河川その他の公の営造物(公共の施設)の設置または管理に瑕疵(かし)があったために他人に損害を生じた場合に、設置・管理者たる公共団体が賠償責任を負うと定めています。

  • 営造物とは公共の用に供される有形の施設のことで、道路・橋梁・上下水道・学校の建物・公園施設などが含まれます。「瑕疵」とは、当該施設が通常有すべき安全性を欠いている状態をいいます。ポイントは、過失がなくても責任を負う可能性がある点です。2条は「無過失責任に近い責任」と言われ、管理者に過失が無くても客観的に見て施設が危険な状態で損害が発生したら賠償義務が生じます。

  • 例えば、道路に大きな陥没ができていて夜間照明も無く運転者が避けられず事故が起きた場合、「道路の管理の瑕疵」として道路管理者である自治体が賠償責任を負い得ます。もちろん不可抗力的なもの(直前に発生した陥没でまだ対応時間がなかった等)は直ちに瑕疵とはいえない余地もありますが、基本的には利用者の安全確保義務に照らし判断されます。

  • 国家賠償2条の責任主体は「その営造物を設置し、又は管理する者」(国・公共団体)です。例えば都道府県道であれば都道府県、市町村管理の公園なら市町村が被告となります。被害者は1条と同じく国や自治体を相手取って訴訟を提起します。

    • 瑕疵の判断基準: 判例では、「瑕疵」は単に施設に欠陥があるかどうかではなく、施設の種類・用途、所在地、利用状況など諸般の事情を考慮して客観的に見て通常備えるべき安全性を欠いているかで判断されます。例えば山間部の未舗装道路に都市部の幹線道路と同じ安全性は要求されないなど、状況によって基準が変わります。過去の判例では、トンネルの照明設備が暗すぎて事故が起きたケースで「通常期待される照度を欠いていた」として瑕疵を認めた例があります。また水難事故で堤防や護岸設備の構造が問題となった例もあります。いずれも、利用者の生命身体に危険が及ばない程度の安全性が確保されていたかが問われます。


    • 【条文引用】 「道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があったために他人に損害を生じたとき」は、その設置・管理者たる公共団体等が賠償責任を負う(国家賠償法2条1項)。


    • 第2項(他人の占有する場合): なお、営造物を国や自治体以外の者が占有管理している場合(例えば道路工事業者などが一時的に占有して管理している場合)は、まず占有者が賠償責任を負い、占有者に過失がなければ本来の管理者が責任を負う、という規定もあります(国賠法2条2項)。基本は実際管理している者が責任負うべきとの考慮です。


  • 被害者は、国や自治体に対し損害賠償金の支払いを求める国家賠償請求訴訟を提起します。被害者は、国や自治体に対し損害賠償金の支払いを求める民事訴訟を提起します。裁判では上記要件(1条なら公務員の職務行為の違法性と過失、2条なら営造物の瑕疵など)を原告が主張立証します。違法な行政処分の場合、まず取消訴訟で処分を取り消した上で、その違法を前提に国家賠償請求をすることもありますし、直接国家賠償だけ求めることも可能です(※後述の「国家賠償請求と取消訴訟の関係」参照)。


  • 事例: 国家賠償の典型事例としては、警察官や役所職員の違法行為による損害があります。警察官が職務質問の際に不当に暴力を振るった、税務署職員が誤った課税処分をして営業に損害を与えた、監督官庁が明らかな違法建築を見逃して隣家に被害が及んだ、など様々なケースが考えられます。東大ポポロ事件(警察官の大学立入り)や板まんだら事件(検察官の違法捜査)などでは国家賠償が問題となり、国の責任が認められています。また、宇奈月事件(温泉権に関する妨害排除と権利濫用)や朝日訴訟(生活保護基準を巡る訴訟)はしばしば国家賠償に関連して言及される重要判例です(朝日訴訟は生活保護基準の適法性が争われ、結果的に国家賠償は認められませんでしたが、生存権と立法裁量の関係で有名です)。


損失補償(適法な公権力行使による財産権等の補償)

損失補償とは、適法な行政作用によって私人に特別の犠牲(特別の損失)が生じた場合に、公平の見地からその損失を填補する制度です。国家賠償が「違法な行為」に対する賠償だったのに対し、損失補償は行政の行為自体は適法(正当な権限に基づき公益のために行われた)であるにもかかわらず、特定の国民に生じた過大な負担を救済するものです。これは憲法上の要請でもあり、特に財産権に関して日本国憲法第29条第3項が「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる。」と規定しています。

典型例は土地の収用です。公共事業のために個人の土地を強制的に収用すること(適法です)は、その人に財産権の喪失という犠牲を強いるので、社会全体でその人に対し代償(金銭補償)を与える必要があるわけです。

  • 特別の犠牲の概念: 損失補償が行われるのは、「特別の犠牲」に当たる場合です。特別の犠牲とは、国民が通常受忍すべき一般的な負担の範囲を超えるような特定の犠牲のことを指します。行政活動は広く社会全体に何らかの影響や負担を与えるものですが、その影響が社会生活上一般に我慢すべき程度(これを「一般的受忍限度」といいます)を超えて特定人に集中する場合に補償が必要になります。

  • たとえば、新幹線の開通で沿線住民はある程度の騒音にさらされますが、多くの場合それは公共の利益実現のために社会で受忍すべき一般的犠牲とされ補償はありません。しかし、騒音が極端に大きく一部住民の生活が成り立たないレベルなら、その人々に補償が検討されます。このように、どこまでが「我慢すべき範囲」かと、どこからが「特別な犠牲」かの線引きは難しいですが、判例は被侵害利益の種類や程度、受益の有無、被害の範囲などを考慮して判断しています。


  • 補償の根拠と手続: 憲法29条3項は主に財産権の公的収用に関する補償規定ですが、財産権以外でも特別の犠牲が認められる場合には法律で補償が用意されることがあります。

  • 具体的な補償制度としては、土地収用法に基づく損失補償(立ち退き料や営業補償等)、災害予防のための建物移転補償、道路計画変更で土地利用が制限された場合の補償、家畜伝染病予防のための殺処分補償(家畜伝染病予防法)など、個別法に定めがあります。補償の請求手続も個別法によりますが、行政処分として補償額の決定がなされ不服なら訴訟で争う、といった流れになります。


  • 事例: よくある損失補償の例として、土地収用があります。公共事業(道路建設、ダム建設など)のために土地を強制取得された場合、土地の時価相当額や移転費用などが補償されます。また、営業補償も典型例です。道路計画で店舗が立ち退きになる場合、単に土地建物の価値だけでなく営業停止による逸失利益も補償されることがあります。漁業補償などもあります(公共埠頭建設で漁場を失う漁民への補償など)。さらに、家畜の殺処分の例では、家畜伝染病予防法に基づき家畜を殺処分した際、国が所有者に時価で補償金を支払います。これらはいずれも行政行為自体は公益のため適法になされていますが、その対象者に経済的損失が集中するため補償するものです。


  • 判例上の基準: 判例は「特別の犠牲」かどうかを判断する基準として、「被侵害利益が公共のために受忍すべき一般的範囲内か、それを超えるか」を重視しています。

  • たとえば、戦後の判例で、公用収用ではなく条例による建築禁止区域の指定(都市計画)によって土地利用が大幅に制限された事案で、財産権への特別の犠牲として補償が必要か争われました。このケースでは、財産権の本質的内容を侵すほどではないとされ補償は否定されました(いわゆる大法廷判決・公共用地の取得に関する判例)。

  • 一方、最近では原発事故後の避難指示による損失に対する損失補償(実質的には損害賠償ですが、公権的な避難指示による財産・営業損失なので補償的性格もあります)など、新たな局面もあります。


ポイント: 国家賠償と損失補償の整理

  • 国家賠償(国賠法1条): 公務員の職務上の違法行為による損害について、国や地方公共団体が賠償責任を負います。被害者は直接国・自治体に請求でき、公務員個人ではなく組織が賠償します。公務員に故意・重過失があれば国は公務員に求償可能です。
  • 国家賠償(国賠法2条): 公共の営造物の瑕疵による損害について、施設管理者たる公共団体が賠償責任を負います。過失を要件としない事実上の無過失責任に近く、道路や公園などの欠陥で事故が起きた場合に適用されます。
  • 損失補償: 適法な行政行為で私人に生じた特別の犠牲に対し、公平の見地から補償が行われます。憲法29条3項に基づき、主に財産権の収用で補償が必要とされます。一般の受忍限度を超える負担が対象で、土地収用、営業制限、家畜殺処分などで補償金支払いが行われます。
  • 違法・適法の区別: 違法な行政作用による損害→国家賠償(争うには民事訴訟)、適法な行政作用による特別な損害→損失補償(事前の補償交渉や処分、補償不満なら行政訴訟)と整理されます。いずれも国民の権利救済制度ですが、要件や手続が異なるので区別して覚えましょう。

6. 重要判例解説(試験対策としての整理)

最後に、行政法分野で試験によく問われる重要論点と判例をいくつか整理します。行政法総論から各論まで、判例知識が得点のカギになることが多いので、趣旨を押さえておきましょう。

  • 権限の逸脱・濫用(目的違反)
    行政庁がその持つ権限を、本来の目的から逸脱して行使した場合、たとえ手続が形式的に適法でもその処分は違法とされます。これは行政法の一般原則で、裁量権の範囲を超えた動機・目的での権限行使(「裁量権の逸脱・濫用」)を禁止するものです。

  • 例えば、営業許可権限を持つ役所が、許可基準は満たしているのに担当者の気に入らない業者だからという理由(権限の私的濫用)で許可しないのは、明らかに権限逸脱・濫用で違法な不許可処分となります。判例でも、自治体が特定業者を排除する目的で法律の趣旨を逸脱した処分を行った場合に違法と判断したものがあります。要するに**「行政権は与えられた目的のためにのみ使うべきで、違う目的に使ってはいけない」**という原則です。


  • 公平の原則と裁量統制
    行政には法の下の平等原則(憲法14条)を具体化した公平の原則が求められます。類似の事案は類似に、異なる事案は差異に応じて処理するのが行政の基本です。行政庁が裁量権を行使する際、著しく公平を欠く取扱いをしたり、合理的理由なく差別的な扱いをした場合、それは裁量権の濫用として違法となり得ます。

  • 判例でも、行政処分において他の同種事案と比べて著しく不合理な差別的取扱いをした場合に違法と認めたものがあります。例えば、同じ違反をした業者に対してある地域では営業停止1日、別の地域では営業停止1ヶ月と極端に処分量定が異なるような場合、合理的な事情説明がなければ不平等で裁量権濫用と判断される可能性があります。行政裁量も無限定ではなく、常に合理的範囲内で行使されなければならないということです。


  • 行政指導・通達の処分性
    行政指導や上級行政庁からの通達(内部指示)は、原則として行政処分には該当しません。したがって、行政指導や通達それ自体は取消訴訟の対象にはならないのが基本です。行政指導はあくまで任意のお願いに過ぎず法的効果を持たないため、裁判でその取消しを求めても「そもそも処分ではない」として却下されます。通達も、例えば国の官庁が出す事務次官通達などは内部的基準の通知であって国民の権利義務を直接制限するものではないため、これも処分性を欠きます。

  • ただし例外的に、行政指導が実質上強制に等しい場合や、通達に基づいて事実上画一的な処分がなされ国民に影響している場合には、間接的に問題になることがあります。


  • 行政計画と信頼保護
    都市計画や土地利用計画などの行政計画は、広範な公益調整を伴う行政作用です。行政計画の策定・変更によって個々人の権利利益(財産価値など)が影響を受ける場合がありますが、計画自体は一般的な規範であって個別の処分ではないため、直接取消訴訟の対象になるとは限りません。しかし、計画によっては個々人に重大な影響を与えるものもあり、計画の変更に際して信頼保護の原則が問題となります。行政の継続性・予見可能性も重要な価値であり、一度示した計画に人々が信頼を寄せて投資や生活設計をしている場合、その信頼は保護されるべきとされます。

  • 判例でも、長年変わらない都市計画を信じて営業していた人に対し急な計画変更で不利益を与える場合、行政側に十分な説明や補償措置を求めた例があります 。試験では「行政計画の変更は原則自由だが、信義則上信頼保護に配慮が必要」といった論点が問われます。国民に正当な信頼を抱かせ、それに基づく投資や行動をとらせておきながら翻すのは許されないというのが信頼保護の原則です(これは計画変更に限らず、個別の行政指導や行政契約においても適用される一般原則です)。


  • 国家賠償請求と処分取消しの関係
    違法な行政処分により被害を受けた場合、取消訴訟を提起せずに直接国家賠償請求訴訟を提起することも可能です。国家賠償法1条による損害賠償請求は、当該処分の違法性と公務員の過失を立証すれば認められるため、処分が取り消されているか否かは法的には必須要件ではありません。

  • 実務上は、処分が違法であることを明確にするためまず取消訴訟で処分を取り消してから賠償請求する方が確実ですが、取り消されていなくても賠償請求で処分の違法を主張立証して勝てば損害賠償を得られます。

  • 逆に、取消訴訟に勝って処分が取り消されても、自動的に損害賠償が支払われるわけではありません。損害賠償を得るには別途国家賠償訴訟で、違法性に加えて損害額や過失なども立証する必要があります。

  • 「処分が取消されなくても国家賠償請求できる」点がポイントです判例でも、出訴期間徒過で取消訴訟ができない処分について、国家賠償請求が認められた例があります。また、違法な処分に対し取消訴訟と国家賠償訴訟の両方を提起し、取消判決確定後に賠償額を決める、といった手続きをとることもあります。